けであった。火辻軍平の死体は、どこにあるのだろう。まことに奇々怪々《ききかいかい》なる事件!


   犯人は何者か


 火辻の死体が紛失《ふんしつ》したことは、その夜のうちに知れわたり、さっそくこの怪事件の捜査《そうさ》がはじまったが、その解決はなかなか困難だった。
 読者諸君は、この犯人なるものの正体を、だいたい察しておられる。しかし当局にはそれがなかなか分からなかった。
 分かっていることは、犯人が大力《だいりき》であることだ。そうでなくては、あの丈夫《じょうぶ》な鉄格子のはいった窓をやぶることはできない。
 そのほかに何もはっきりした証拠《しょうこ》はない。犯人の足あとを見つけようと思って、ずいぶん探したのであるけれど、それは発見されなかった。もっとも刑務所内は、どこもかしこも舗装《ほそう》されていて、足あとがつかないようにできていたし、塀の外もまた舗装の道路だから、足あとはのこらなかった。
 事務所の高い監視塔《かんしとう》にいつも見張りをしていて、脱獄者《だつごくしゃ》があれば、すぐ見つけるようになっている監視員がいる。この監視員も犯人らしいものが、この事務所から脱出して
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