いくところを見かけなかった。
監視員の目にふれないで、脱獄することはできない仕事だ。だから犯人はどうして出てしまったのか。あるいはまだ所内にかくれているのではないかと、念入りの捜査が行われた。
その結果、やっと分かったことは、絞首台の下に、死刑囚の死体がおりてくを地下室があるが、その地下室の板壁《いたかべ》の一部がぶらぶらしており、怪しく思ってその板壁のうしろをのぞいてみたところ、そこは、がらんどうになっていた。つまり狭《せま》い地下道みたいなものがあったのだ。それがどこへつづいているのかと、奥へすすんでいくと、やがて地上へ出た。まっくらな場所であるが、たしかに家の中だ。はいあがってよく見れば、なんのこと、それは農家《のうか》の物置《ものおき》だった。その農家の物置は、刑務所から道路をへだてた場所に建っていた。
この抜け道から、犯人は事務所へ出はいりしたことが分かった。
だが、農家でも、こんな抜け道がいつ掘られたのか、だれも知らなかった。それはほんとうと思われた。とにかく犯人がうまくこの抜け道を掘ったのであろう。
犯人は、頭のいいやつにちがいない。事務所の内部で、あまり人の立
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