が、古ぼけた銀紙製《ぎんがみせい》の蓮《はす》の造花を照らしていた。線香立《せんこうたて》や焼香台《しょうこうだい》もあった。
 火辻軍平のなきがらのはいった棺桶は、この前にはこびこまれ、北向きに安置《あんち》された。それから太い線香に火が点ぜられ、教誨師が焼香し、鉦《かね》をたたき、読経《どきょう》した。この儀式はまもなく終り、一同はこの阿弥陀堂から退出した。
 あとは阿弥陀さまと棺桶ばかりとなった。夜はいたくふけ、あたりはいよいよしずかになり、ただ一つの生命があるかのように燃えていた線香も、ついに最後の白い煙をゆうゆうと立てると、灰がぽとりとくずれ、消えてしまった。こうして堂の中は死の世界と化した……。
 めりめりッ。とつぜん仏壇の横手の鉄格子《てつごうし》が、外からむしりとられた。太いまっ黒な手が、外から窓へさしいれられた。人間の腕ではない。くろがねの巨手《きょしゅ》だ。
 と思うまもなく、醤油樽《しょうゆだる》ほどある機械人間《ロボット》の首がぬっと窓からはいって来た。そしてするすると阿弥陀堂の中へとびこんだ。ああ、あいつだ。例の、怪しい機械人間だ。ダムを破壊した恐ろしい機械人
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