そういって執行官は、教誨師の同意をもとめた。
「そうでした。頭のいやにでっかいやつの影でした。私は、地獄から、閻魔《えんま》の使者《ししゃ》として大入道が迎えに来たのかと思いました」
「ははは、なにをいうですか、おどかしっこなしですよ」
 補助官は、二人にかつがれているんだと思って、笑ってしまった。
 とにかくその場は、それで一まずおさまった。執行官たちは念のために構内《こうない》を見まわったが、べつに怪しい者を見かけなかったから。もっとも夜もふけていたし、死刑執行もすんだことゆえ、みんな早くその場を引きあげたくて、気がいそいだせいもあろう。
 そこで死刑となった火辻軍平の死体は、棺桶《かんおけ》におさめられたのち、そこから遠くないところにある阿弥陀堂へ、はこびいれられた。
 この阿弥陀堂は、やはり塀ぎわに建っている独立のかんたんな堂であって、お寺のお堂のような形はしていなかった。しかし中にはいってみると、お寺の本堂そっくりだった。奥の正面には、西をうしろにして木像の阿弥陀如来《あみだにょらい》が立っており、その前に、にぎやかな仏壇《ぶつだん》がこしらえてあった。電灯を利用したみあかし
前へ 次へ
全194ページ中52ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング