もないことをおそれているのではない。わしを信じてくれ。そしてわしを完全に保護してくれたまえ」
 博士は、からだをぶるぶるふるわせながら、そういって、同じことをくりかえし、いうのであった。友人たちもそれ以上、この病人からわけを聞きただすことをさしひかえた。
 こうして博士は、東京の西郊《せいこう》にある柿ガ岡病院にはいった。ここは多摩川《たまがわ》に近い丘の上にあるしずかな病院であった。この病院は、土地が療養《りょうよう》にたいへんいい場所であるうえに、すぐれた物理療法《ぶつりりょうほう》の機械があって、東京において、もっとも進歩した病院の一つであった。
 院長は大宮山博士《おおみややまはかせ》だった。
 谷博士は、じつは大宮山博士をいつも攻撃していたし、大宮山博士もまた、谷博士には反対の態度をとっていた。ただし、それは学問の上のことだけであって、友人と友人とのあいだがらは、たいへんおだやかであり、たがいの人格も信用していた。だから、谷博士は、自分の視力《しりょく》がやられ、神経もいたんでいるとさとると、みずからすすんで大宮山博士が院長になって経営しているこの柿ガ岡病院にはいる決心をした
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