のであった。知らない人は、ふしぎなことに思ったにちがいない。
院長たちの手あつい治療によって、谷博士はだんだん快方《かいほう》に向かった。
しかしよくなるのは神経病の方だけであって、視力の方はまだ一向はっきりしなかった。博士はいつも繃帯《ほうたい》でもって、両の目をぐるぐる巻いていた。
「ぼくの目は、もうだめかね」
谷博士がたずねたことがある。
「いや、だめだとはきまっておらん。今の療法をもうすこしつづけたい。それが、効果がないとはっきり分かったら、また別の方法でやってみる」
「いよいよ目がだめなら、ぼくは人工眼《じんこうがん》をいれてみるつもりだ」
「人工眼か? 君の発明したものだね。まあ、それはずっと後のことにしてくれ。君はぼくの病院の患者なんだから、よけいな気をつかわないで、ぼくたちに治療《ちりょう》をまかしておいてくれるといい」
「うん、それは分かっているんだ」
谷博士は、そのあとでしばらく口をもごもごさせて、いいにくそうにしていたが、やがて低い声でつぶやいた。
「……あの恐ろしいやつの存在を、一日も早くつきとめたいのだ。ぐずぐずしていると、こっちが目が見えないのにつけ
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