をなげるように、おれたちになげつけるんだからなあ。おそろしい大力だ。あんなものがあたりや、こっちのからだは、いちご[#「いちご」に傍点]をつぶしたように、おしまいになる」
「なんだい、あの化物の正体《しょうたい》は」
「さあ、なんだろうなあ。まっ黒だから、お不動《ふどう》さまの生まれかわりのようだが、お不動さまなら、まさか人間を殺そうとはなさるまい。あれは黒い鬼《おに》のようなものだ」
「黒鬼《くろおに》か。赤鬼や青鬼の話は聞いたことがあるが、黒鬼にお目にかかったのは、今がはじめてだ。しかし、待てよ。鬼にしては、あいつは角《つの》が生《は》えていなかったようだぞ」
「いや、生えていたよ、たしかに……」
 村人たちのさわぎは、だんだん大きくなっていく。
 そのうちに、ふもとの村から、特別にえらんだ警官隊がのりこんで来た。この警官たちはこわれたダムの警戒にあたるつもりで来たが、犯人が意外なる大力無双《だいりきむそう》の怪物であると分かり、それから山中に出没《しゅつぼつ》するという報告を受けたので、「それでは」と怪物狩《かいぶつが》りの方へ、大部分の警官が動きだした。
 もちろん、とてもそれ
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