ごほんとむせた。羽黒はもう二はいのませた。
「ああッ、ありがとう。どなたか知らないが、私を介抱《かいほう》してくだすって、ありがとう」
 博士は元気になって、礼をいった。その博士は、目をあいているが、手さぐりであたまをなでまわす。
「おじさんは、目が見えないのですか」
 戸山が、たずねた。
「目が見えない? そうです。今は目が見えない。さっき実験をやっているとき、目をやられて、見えなくなったのです。困った。まったく困った」
「おじさんはだれですか」
「私はこの研究所の主人《あるじ》で、谷です。君たちは少年らしいが、どうしてここへ来ましたか。いや、それよりも、もっと早く知りたい重大なことがある。この部屋は、どうなっていますか。器械や実験台などは、ちゃんとしていますか」
 谷博士の質問にたいして、少年たちは気のどくそうに、かわるがわる室内の様子を話してやった。
 博士の顔は、赤くなり、青くなりした。眉《まゆ》の間には、ふかいしわがよった。
「えッ。ガラス箱なんか、どこにも見えませんか。ガラスの皿もですか。その皿の上にのっていた灰色のぶよぶよした海綿《かいめん》のようなものも見えませんか。よ
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