ことだった。
秋の山をぜひ登ろうというので、例の戸山君、羽黒君、井上君ほか二名の、仲よし五人少年が三角岳《さんかくだけ》の方へのぼって来たのであった。
のぼる道々で、少年たちは、谷博士の経営している三角じるし機械人間工場のポスターを見た。博士の名まえは、はいっていなかったけれど、製品は機械人間だというし、それにその工場のあるところが、三角岳だということなので、少年たちは深い興味をわかした。
「すると、谷博士の研究所あとで、だれかあんな工場をはじめたと見えるね」
「博士は知っていられるのだろうか」
「さあ、知らないだろうね。もっとも、知らせるといっても、博士はあれ以来、ずっと面会謝絶《めんかいしゃぜつ》で、意識がはっきりしないということだから、知らせようがないわけだね」
「だれが経営しているんだろうか。まさか、例の機械人間の形をした怪物がやっているのではなかろうか」
「そんなことはないだろう。だって、もしそんなことがあったら、大評判になるから、東京へもすぐ知れるよ」
「とにかく、あの研究所を利用することを考えたところは、なかなか頭がいいや」
少年たちは、こんなことを話しながら、山を登っていった。
やがて少年たちの目にうつったのは、例の修理された塔であった。すっかりきれいになっている。そして大ぜいの人が出はいりし、トラックもひんぱんに、りっぱになった道路を走って、工場の製品をはこんでいる。
少年たちは、門の前まで来ると、真空管《しんくうかん》の中へ吸いこまれるように、塔の中へつかつかとはいっていった。
「あ、あそこに谷博士がいるよ」
「どこに。ああ、あれか。なるほど、谷博士さんそっくりだ。しかしおかしいぞ。博士は重病《じゅうびょう》なんだから、こんなところにいるわけはない。だれかにたずねてみよう」
戸山少年がそばを通りかかった職工《しょっこう》のひとりをよびとめて、たずねてみると、
「あれがこの工場主の谷博士ですよ」
と答えたから、少年たちは、あッとおどろいた。
そのおどろきの声が、博士に聞こえたらしく、博士はきつい顔になって、ずかずかと少年たちの方へやって来た。
「君たちは、こんなところでなにをさわいでいます」
そこで戸山が出て、
「谷博士に目にかかりたいと思って来たのですが、博士はどこにいらっしゃいますか」
というと、
「谷博士は、わしです」
「
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