超人間X号
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)大雷雲《だいらいうん》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)測定|当直《とうちょく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あれ[#「あれ」に傍点]はどこにどうして
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   大雷雲《だいらいうん》


 ねずみ色の雲が、ついに動きだした。
 すごいうなり声をあげて、つめたい風が、吹きつけてきた。
 ぐんぐんひろがる雲。
 万年雪をいただいた連山の峰をめがけて、どどどッとおしよせてくる。
 ぴかり。
 黒雲の中、雷光《らいこう》が走る。青い竜がのたうちまわっているようだ。
 雷雲はのびて、今や、最高峰の三角岳《さんかくだけ》を、一のみにしそうだ。
 おりしも雷鳴《らいめい》がおこって、天地もくずれるほどのひびきが、山々を、谷々をゆりうごかす。三角岳の頂上に建っている谷博士《たにはかせ》の研究所の塔《とう》の上に、ぴかぴかと火柱《ひばしら》が立った。
 つづいて、ごうごうと大雷鳴が、この山岳地帯の空気をひきさく。
 黒雲はついに、全連峰をのみ、大烈風《だいれっぷう》は万年雪をひらひらと吹きとばし、山ばなから岩石をもぎとった。
 このとき、谷博士は、研究所の塔の下部にある広い実験室のまん中に、仁王立《におうだ》ちになって、気がおかしくなったように叫んでいる。
「雷《らい》よ、もっと落ちよ。もっと鳴れ。稲妻《いなずま》よ。もっとはげしく光れ。この塔を、電撃でうちこわしてもいいぞ。もっとはげしく、もっと強く、この塔に落ちかかれ」
 博士は、腕をふり、怒号《どごう》し、塔を見あげ、それから目を転じて、自分の前においてある大きなガラスの箱の中を見すえる。
 その大きなガラスの箱は、すごく大きな絶縁碍子《ぜつえんがいし》の台の上にのっている。箱の中には、やはりガラスでできた架台《かだい》があって、その上に、やはりガラスの大皿がのっている。そしてその大皿の中には、ひとつかみの、ぶよぶよした灰色の塊《かたまり》がのっている。どこか人間の脳髄に似ている。海綿を灰色に染め、そしてもっとぶよぶよしたようにも見える。なんともいえない気味のわるい塊である。
 しかもその灰色のぶよぶよした塊は、周期的に、ふくれたり、縮んだりしているのであった。まるでそれ自身
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