が、一つの生物であって、しずかに呼吸をしているように見えた。
いったいその気味のわるい塊は、何者であったろうか。
ガラスの箱のまん中に、その気味のわるい塊があり、その塊を左右からはさむようにして、大きな銀の盤のようなものが直立して、この塊を包囲《ほうい》していた。その銀盤は、よく見ると、内がわの曲面いっぱいに、たくさんの光った針が生えていた。
その針と反対のがわには、銀色の棒があって、これが左右ともガラス箱の外につきでていた。そして、ガラス箱の真上十メートルばかりの天井の下の空中にぶらさがっている二つの大きな火花間隙《ひばなかんげき》の球《きゅう》と、それぞれ針金によって、つながれてあった。
この大じかけの装置こそ、谷博士が自分の一生を賭《か》け、すべての財産をかたむけ、三十年間にわたって研究をつづけている人造生物に霊魂《れいこん》をあたえる装置であった。そしてその装置を使って最後に霊魂をあたえるには、三千万ボルトの高圧電気を、外からこの装置に供給してやらねばならなかった。
ところが、三千万ボルトと口ではかんたんにいえるが、ほんとに三千万ボルトの高圧電気を作ることはむずかしかった。どんな発電機も変圧器も真空管も、この高圧電気を出す力はなかった。そこで最後のたのみは、雷を利用することだった。
雷は、空中に発生する高圧電気であって、だいたい一千万ボルト程度のものが多い。しかし、時には三千万ボルトを越える高圧のものも発生すると思われる。そこで谷博士は、その偶然の大雷の高圧電気を利用する計画をたてて、この三角岳の頂上に、研究所を建てたのであった。
博士は、そのまえに、人造生物を用意した。これは、博士が研究の結果、特別につくった人造細胞をよせあつめ、それを特別な配列にしてここに生物を作りあげたものであった。その生物は、たしかに生きていた。例のガラスの箱の中においた、ガラスの皿の上にうごめいているのが、その人造生物だった。たしかにその生物は呼吸をしている。また心臓と同じはたらきを持った内臓によって、血液を全身へ循環《じゅんかん》させている。
まだそのほかに、人間や他の動物にはない特殊な臓器をもっていた。それは博士が「電臓《でんぞう》」と名づけているものである。この電臓は、その生物の体内にあって、強烈なる電気を発生し、またその電気を体内で放電させる。つまり特殊の電
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