親からさんざんと叱《しか》られたもんじゃったがのう」
「なんだかしらんが、なにかがわしにのりうつって、うまく作業をこなしていってくれるような気がしてならん。わしの力だけとは、どうしても思われんな」
「おれも、そういう気がする」
「ばかをいえ。そんなことがあってたまるか。やっぱりおれたちの技術者としての腕があったんだ」
この会話の中には、なぞのことばが、ところどころ頭を出していた。そのなぞが持つ秘密が、やがてとける日が来たとき、この素人職工たちはびっくり仰天《ぎょうてん》しなくてはならなかった。
それはとにかく、谷博士が新しくつくったこの山の中の製造工場からは、まもなくりっぱな製品がどんどん出るようになった。その製品は、なんであっただろうか。
それは機械人間《ロボット》であった。
「仕事をやらせるにべんりな機械人間をお買いなさい。畑の仕事でも、遠いところからの水くみでも、なんでもやります。しかも、人間の十人分は働きます。一台わずか五千円。二百円ずつの月賦販売《げっぷはんばい》も取りあつかいます。一週間のためし使用は無料です。三角じるしの機械人間工場」
こんな文句からはじまって、美しい絵ときをしてあるポスターが、ほうぼうの町や村にくばられた。
一週間ただで、ためしに使用してもよろしいと書いてあるので、それを申しこむ者がどの村でも一人や二人はあった。
申しこむと、機械人間工場《ロボットこうじょう》から、すぐさま機械人間がとどけられてきた。工場からは販売員がついて来て、使いかたをおしえる。そこで使ってみると、なかなかべんりでもあり、また人間の十倍も仕事をする。これはいいということになって、一度ためした人は、みんな機械人間を買う。
買えば、近所の人がめずらしがって、それを見物に集まってくる。なるほど、これは重宝《ちょうほう》だというので、こんどは何人もたくさん名まえをつらねて「買います」と申しこむ。
そんなわけで、谷博士の製造工場の経営は大あたりであった。
そのために、あたりの村や町の人は、博士さまをたいへんありがたく思い、もう昔のような悪口をいう者なんかいなかった。
怪《あや》しい谷博士
さて、ある日のこと。
ある日といっても、それは、日曜日の次の月曜日が祭日《さいじつ》で、土曜日の午後から数えると、二日半の休みがとれる日の、その日曜日の
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