を、ときどきチクリと止める何物かが夾雑《きょうざつ》していることに、喜助は気付かないわけにゆかなかった。それは何といいあらわすべきであろうか。早く言うなれば大熊老人の死に纏る莫然たる疑惑であった。
 老人は何故こう脆《もろ》くも死んでしまったのであろうか。
 親族達は、老人が死ぬと直ちに一致協力して、別に何の特権もないことが判って居る喜助を邸外に抛《ほう》り出したのであろうか。
 更に、これは大秘密であるけれど、大熊老人は生前に於て、ひそかに喜助の手を借りて毒薬|亜砒酸《あひさん》を常用していたが、それは多分、抗毒性の体質をつくりだすことにあったのであろうが、それは実際、老人にとってどんな役目を演じていたのであろうか。又、そのすくなくない亜砒酸常用の体質が、今度の死亡原因に、どのような関係があるのであろうか。
 そんなことを、いろいろ綴り合わせて考えてゆくと、若しやという疑惑が、なんだか本当にそうあったらしく思われて来るのであった。親族連中が一致団結して事に当っているのもおかしいと言えば言えないこともないし、死亡診断書を書いたN博士だって、何か動機があれば、インチキ証明書を書かぬとは言
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