えないだろうし、そう言えば、老人がこのたび死病にとりつかれたのに、主治医としてN博士とその助手が二人ほど診《み》に来たばかりで、百万長者の生命を治療するのには、たいへん貧弱すぎたと考えられる。
(わかった、彼等一団の親戚たちは、一致協力して、あるまいことか大熊老人の毒殺を企てて、それが不幸にも見事に成功してしまったのだ。きっと、そうに違いない。自分を直ぐに室外につまみだしたのも、単に喜助という少年を嫌ったのではなくて、実は自分が薬学についての専門家であることに恐怖を感じて、排斥したものに相違ない)
 喜助は、大きな泣き声を、いつの間にか、やさしい泣き逆吃《じゃくり》に代えて、こんな想像をめぐらしていたのであった。彼は大きく肯くと、突然|颯爽《さっそう》と畳の上に立ち上った。と思ったら、直ぐにペタンと、元の薄汚れに汚れた座蒲団の上へ、崩れるように坐りこんでしまった。
(讐打《かたきう》ちをしても、何になる。死んだおじいさんが、生き返るわけじゃ無いし……)
 喜助の心は、どこまでも弱く、そして悧巧《りこう》であった。死んだ老人を甦らせる手のないのに、何をやっても駄目であるに違いなかった。殊
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