とかこちらの親切を認めて貰って、遺産分配の比率を高くして貰おうという魂胆から出発していることは明白であった。老人の気むずかしくなるのも、こうした一面から見て無理のないことであった。
 大熊老人は、今までに随分沢山の人を世話したけれど、どれも老人の気に入るようなのはなかった。唯一人、それは唯一人だけ、前に言った喜助だけが気に入りであった。
「お前は一生懸命に勉強して、豪《えら》いものになるんだぞ。お金のことなんか考えずに、いいと信じたことをドンドンやってのけなさい。そうすると、お金なんか向うの方から自然に飛びこんで来る。それには若いうちにウンと苦労をするに限る。苦労を積まない人間は駄目じゃ。人から貰う金は、自分を堕落させるばかりじゃ。このわし[#「わし」に傍点]はナ、お前が大好きじゃから、ある程度の世話はしてやるが、わしの財産は一文も分けてはやらぬぞ。わしはお前に依頼心を起して貰いたくないのじゃ。お前をデクノ棒にしたくないのじゃ。財産を一文も分けてやらぬ好意を、よく胸に畳んで忘れて呉れるでないぞや」
 老人は、喜助に対して、いくたびとなく、此の訓戒を試みた。喜助は老人の好意を、実質以上に
前へ 次へ
全21ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング