ているだろうと噂された。政党、ことに××党にとってこの老人は文字どおりの弗箱《ドルばこ》であったからして、大臣になったことは無いが、その巨大なる財力は常に到るところで物を言った。現に××内閣で帆をあげている大蔵大臣の如きは、実力に於て首相を凌《しの》ぐと取沙汰されているのも、実はといえば、この大熊老人が特に大蔵大臣の尻押しをしているからであった。大熊老人の鼻息の荒いもう一つの理由は、老人は三十年此の方、独身であり、そのうえ老人には一人の子供も無論孫も無い、全くの孤独者であったことである。自然、老人は我儘にもなり、ヒステリーにもならざるを得なかった。
老人には子供はないけれども、親戚は随分と多かった。彼等は常に老人の周囲に出没して、何やかやと世話を焼きたがった。中には親戚というには、余りに縁の遠いものまで交っている始末であって、そういう者に限り、特に親切を老人に売りこみたがった。実際彼等多くの親戚が、この気むずかし屋の癇癪《かんしゃく》もちの動物的な汚れが浸みこんでいるように見える老人の周囲に出没するのは何も心から、この一人ぽっちの老人を慰めてやろうという意志から出たものではなく、なん
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