殺を押し止められるよりは、電車に轢れた方がましだ、と思った喜助は、いきなり叔父を土間の上につき転がすと、裏口を開いて、真暗な往来へ飛び出した。
踏切の方へ! 線路へ!
其の日の斎場の光景は、まことに厳粛を極めたものだった。何しろ、実力に於て首相格である大熊老人の葬儀のことであるから、上はA総理大臣をはじめとし、閣僚全部を筆頭に、朝野の名士という名士、その数無慮五百名、それに加えて、故人の徳を慕う民衆の参列者が一万人に近いという話であった。斎場の正面のずっと高い石の壇上には、大熊老人の亡骸《なきがら》を安置しその下には、各名士から贈られた真榊や、花筒や、花環がギュウギュウ言うほど、おし並べられ、まるでアマゾン河畔の大森林を此処に移したかの感があった。棺の前には、薄紫の香煙が、濛々《もうもう》と館の内部を垂れこめていた。右の榊の前には、各大臣、議長、将官などが眩《まば》ゆく整列し、左の榊の前には例の大熊老人の親戚の一団が、今日の光栄に得意然たる面持で、目白押しに並んでいた。
棺の正面に今日の導師たる××国師はじめ一門がずらりと並び、一と通りの読経も漸《ようや》く終りに近づき、南無阿
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