ァ喘ぎながら、竹筒の表面から寸時も眼を放たなかった。式場の青山斎場では既に読経が始まっている頃であろう。死におくれては一大事である。
喜助はもう眼を開いて居られなかった。彼は腰掛けの台を後ろに蹴とばすと、矢庭に大榊の花筒にシッカリ抱きついた。彼はハァハァと息を切り、額から脂汗をタラタラと流した。彼は讃美歌を、声も無く、歌っていた。
しかしどうしたわけか、喜助の注文どおりに中々爆発は起らなかった。最初に算出した定刻を五分十分と過ぎて行ったが、彼の腹部もまだ安全であった。喜助はすこし調子ぬけがしてきた。そのときであった。
「ガラ、ガラ、ガラッ!」
やられたッ、と喜助は思った。が少し音の出どころが違うようである。ハッと思って眼を開いてみると、これはどうしたことか、閉めてあった筈の入口が開いて、叔父の久作が、顔色をかえて彼の前に立ちはだかって、口をモグモグさせながら、両手を意味なく頭の上で振っているではないか。
(叔父が帰って来た。大急ぎでとってかえしたのだ。とうとう自分の自殺を嗅ぎつけたのだ。この方法は失敗だッ)
喜助は突嗟に、そう考えてしまった。こうなる上は仕方がない。叔父たちに自
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