弥陀仏の連唱が行われていた――その時であった。
(プスッ)というような鈍い物音が大臣席のうしろの方にした、と思ったら、その次の瞬間に、「ド、ド、どーんッ!」と物凄じい大爆音が起った。
 あとは何にも判らなかった。
 五分、十分……やや静まった。門外に居た参列者だけは、重症を負いながらも、一命はとりとめたようである。その連中が門内を覗きこんで、一種異様な臭気を持った煙の霽《は》れゆく間から本堂のあたりと覚しき跡に眼を移したものは、思わず、
「吁《あ》ッ」と叫んで、顔をそむけた。
 門内に居た五百人の親戚や名士達は一人として生きては居ないらしい。その惨状を、ここに記すのは、筆者としても到底忍び得ないところである。
 それから三十分経った。
 恐るおそる本堂の跡へ入りこんだ警官隊の一行は、本堂の正面にある石の壇上と覚しいところから、おゥ、おゥと叫ぶ人声のあるのに気付いて、胆をつぶした。よくみると、それは無惨にも片足を失った重傷者が、救いを求めているのであった。それを皆が寄って、ようやく下へ降ろして見て再び大吃驚をしなければならなかった。というのは、その片足のない重傷者は、その日、葬儀をした筈
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