行われるその時間に後を追いたい。乃木《のぎ》大将のことなどが急に思い浮んできて、彼はいい気持だった。(さて自殺の方法であるが……)と彼は頤《あご》の尖端を指先でつまんで、脳髄を絞ったのである。一生の思い出となることだから、何とかこう、薬学家らしい堂々たる死に方をしたいと考えた。毒物を盃に盛って、一と息に飲み下だし、盃がまだ卓子《テーブル》の上に、帰らぬ前に既に呼吸が止っているという彼の青酸|加里《カリー》も、実に管々《くだくだ》しい毒物には相違なかったけれども、それを実行した先輩も少くないので、独創を尊ぶ喜助の満足を得ることは出来なかった。それでは、毒草ストロファンツスを使うのはどうであろうか。これは研究所の標本室にあるのを覗いたことはあるが、こういう稀有な標本は、よろずインチキものが多い。もし死にはぐれたら大恥辱である。それでは――
(素晴らしい! それだ!)
と思うような方法を突然思いついたのであった。彼は、金属ソジウムが水に会うと劇《はげ》しく爆発する性質のあるのを利用しようと思った。その金属ソジウムは中々高価な薬品なので、多量は手に入らないのが普通であるが、幸にも研究所へは先
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