あきれた二人達れだろう。自分たちの話に夢中になって、わたくしの突《つ》き当《あた》ったことに気がつかないのだ)
だが、待てよ、どうも腑《ふ》におちぬことがある。まさか、二人の目の前にわたくしが立っているのであるからして、それに気がつかぬというのはおかしい。どうもおかしい。
わたくしは、とてもへんな気持で、またそのまま、くぬぎ林の中を歩いていった。月光は、梢《こずえ》の間から草の上にもれて、ちらりちらりとひかっていた。
すると、わたくしは、また新しい一組の若き男女が、林の奥から、しずかな歩調でもって出てくるのを見つけた。
(なんと、二人連れの多い夜だろう)
と、わたくしは、最初|憂鬱《ゆううつ》になり、ついで憤慨した。
(ついでに、こいつ等にも、ぶつかってくれよう!)
わたくしの邪心は、勃々《ぼつぼつ》としておさえがたく、ついにまたしても、新来の男女が、ぴったりとより添っているあたりを目がけて、どすんと突き当った。その効果は、どうであったか。
その結果は、びっくりしたのは、わたくしの方であった。
なぜなれば、かの両人は、
「あら、およしなさいよ、松島さん」
「あれッ、ひどい
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