よ、君ちゃん。君の方が、ぶつかっておいて……」
と、互いに相手がぶつかったと信じ合い、とうの昔に、両人の間をすりぬけて、そのうしろに立っているわたくしの存在には、一向に気がつかない様子だった。
これには、わたくしも、
(おやッ、これはへんだぞ!)
と、思わずつぶやいたことである。
「あれえ、誰かいるわよ」
「さあ、誰もいやしないよ」
「あら、誰もいないのね。いま、へんだぞとかなんとかいったように思ったけれど……」
両人は、わたくしの方に顔を向けたまま、そんな風に話しあった。しかもわたくしのいることについて、全然気がつかないようであった。
そこでわたくしは、襟筋《えりすじ》が、ぞーッと寒くなったのを、今でもよく覚えている。
(へんだ。前の二人も、今の両人も、どうやらわたくしのいるのに気がつかないようだ。そんなことがあっていいかしら)
わたくしは、だんだん気がへんになってきた。胸はどきどきとおどってきた。気が変になりそうになった。
わるいと思い、おそろしいとも思ったけれど、わたくしは、つづいて第三の一組に対しても、ためしをやってみた。その結果も、また実にかなしむべきものであっ
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