第四次元の男
海野十三

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)縮《ちぢ》れ毛

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)無慾|恬淡《てんたん》
−−

 これからわたくしの述べようとする身の上話を、ばかばかしいと思う人は、即座に、後を読むのをやめてもらいたい。そして、この本の頁を、ぱらぱらとめくって、他の先生の傑作小説を読むのがいいであろう。銀座の人ごみの中で、縮《ちぢ》れ毛の女の子にキッスされた話だの、たちまち長脇ざしを引っこぬいて十七人を叩《たた》き斬った話だのと、有りそうでその実有りもしない話に、こりゃ本当らしい話だと、うつつをぬかすような手合《てあい》に、これからわたくしの述べようとする、無さそうでその実本当にある話を読んでもらっても、とても真の味はわからないであろうから。(もっとひどい言葉でいいたいところだが、冒頭だから、敢て遠慮をしておく)。
 さて、もうこの行のあたりを読んでいてくださる読者は、十中八九、真にわたくしの気持に理解のある粒よりの高級読者だけが残っておられることと思い、わたくしはそろそろ安心して本調子の話をすすめようと思うが
次へ
全21ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング