、しかしまだ幾分ゆだんは出来ないぞ。
 閑話休題《それはさておき》――と、置いて、さてわたくしは、この一、二年この方、ふしぎな自分自身について、はっきりと気がついた。それは、わたくしの身体が、ときどき、誰にも見えなくなるというめずらしい奇現象である。つまり、すーッと、かき消すように、わたくしの身体が見えなくなってしまうのである。
 なんというばかばかしい話であろう――と、思う読者があるだろう。そういう読者よ。これから後を読むのをおよしなさい。君はきっと胸が悪くなるであろう。しかもなお、ばかばかしさが千倍万倍に増長していくのだから。この辺で、読むのをよすのが、お身のためであろうぞ。
 さて、残りの読者諸兄姉よ、卿等《けいら》は、よくぞこの行まで、平然とお残りくだすった。読者中の読者とは、実に卿等のことを指していうのであろう。わたくしは、永く永く卿等の芳名《ほうめい》を録して――とまで書いてきたとき「お世辞はもういい加減にして、先を語れ」という声あり。はい、承知しました。こういう良質の読者には、何をいわれても、わたくしは一向腹が立たない。
 さて、十中十までのわが愛読者諸兄姉よ(だが、まだ
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