ゆだんはならない)。
 とにかく、わたくしは、この一、二年この方、ふしぎな自分自身に気がついた。それは、わたくしの身体が、奇妙にも、誰にも見えなくなることがあるのだ。
 一体こういう奇現象は、なにもわたくし一個人にかぎる現象でもなく、方々にこれと同じ現象をお持ち合わせの方があるのではないかと思う。彼等は、わたくしに較《くら》べて、ずっと賢明ないしは内気であるため、その秘密について告白されないで、普通なみの人間のように振舞っていられるのではなかろうか。実際は、そういう風に取り澄ましている方が、世間に浪も立たず、御自分自身も妖怪変化《ようかいへんげ》あつかいされず、まともなところから立派なお嫁さまないしはお婿さまが来ることが約束されているのを無駄にしないですむと考えておられる結果であろう。ところが、このわたくしは、そういう賢明人種とはちがい、至って生来無慾|恬淡《てんたん》の方であるからして、なにごとも構わずぶちまけて、一向に憚《はばか》らない次第である。
 でも、他人さまのことは他人さまの御勝手ということにして置いて、わたくしは自分のことを詳《くわ》しく申し述べる所存であるが、まずこのわ
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