そう思ったわたくしは目をつぶらんばかりにして前進した。
(あぶない!)
 どすんと、わたしの身体は、若き男の方にぶつかった。
「あいたッ」
 と、その若き男は叫んだ。そしてよろよろとうしろによろめいた。(倒れるか、気の毒に……)と思ったのは、わたくしの思いあやまりで、かの若き男は、ぐっと一足をついて体勢をたてなおした。
「おや、へんだな。――そして僕は伯父にいったんだ。僕はこれがうまくいかなければ……」
 と、早口で喋るのは、その若き男であった。
「あら、どうしたの、今? あんた倒れそうになったじゃないの」
 と、若き女がいった。
「ああ、なんだか身体が、あんな風になっちゃったんだよ。もういたくも何ともないよ。――それで僕は伯父に……」
「だけれど、へんね。まるで、目まいでも起こしたようだったわね」
「なあに大したことはないよ。僕、このごろすこし神経衰弱らしいのでね」
 そういいながら、二人の若き男女は、呆然《ぼうぜん》たるわたくしをのこして向うへいってしまった。
 わたくしは草原へすわりこんだまま、しばし二人の後姿を見送っていた。
(なんという暢気《のんき》というか、鈍感というか、
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