って、びっくりした。それは、くぬぎ林の中から、急に人間が出て来たのである。人数は二人であった。一人は若い男で、他の一人は若い女であった。
 二人は、何か早口で喋《しゃべ》りながら、こっちへやってきた。わたくしはそれを見て、少々|癪《しゃく》にさわった。そういう気持は、誰にでも判るであろう。わたくしは、わざと意地《いじ》わるく二人の邪魔になるように歩いていった。若き男女は、わたくしの悪意を間もなく見破って、横にさけるであろうと、わたくしは予想していた。ところが、わたくしが近よっても、二人の男女は、一向にわたくしをさけようとはしないのであった。これには、わたくしも腹を立てて二重に癪にさわったことであった。
 そのままわたくしが前進すれば、必ず二人の男女にぶつかるしかない。相手は、あいかわらず一直線に近づいてくる。それを見て、わたくしは、こっちで道をさけようかと思った。しかしわたくしが道をさけるいわれは一向にないことに気がついた。相手は二人でたのしんでいるのである。われは一人で一向楽しんでいない。しからば恵まれたる彼等は、恵まれざるわれのために道をゆずるぐらいのことはしてもよいではないか。

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