ているように思われた。(断っておくが、前の時計は、電気時計である。まさか十二時すぎまで、ブラック・コーヒーをのませる店があるものかという人には告げん、闇取引のコーヒー店あることを! これを信じない人は、後段を読むこと無用である。なぜならば、そういう人にはこれから述べようとするわたくしの真実の実話などは、到底なんのことだか信じられないであろう)
だんだんと、篩《ふるい》をかけてきた結果、いよいよ真相を告げておよろしい頃合となったと思うが、わたくしは、人通りまばらなる舗道のうえを歩きだした。わたくしのアパートは、戸塚三丁目にあるので、新宿から歩きだすと、途中で戸山ッ原のさびしい地帯を横断して帰るのが一等|捷径《ちかみち》であった。だからそのときも、従来の習慣に従って、正にそうしたのであるが、その結果、遂に戦慄すべき発見に正面衝突をしなければならなくなったのであった。
さて、わたくしは、電灯を几帳面《きちょうめん》に盡《ことごと》く消し去って、おそろしく大きなボール紙の函が落ちているとしか見えない某百貨店の横をすりぬけ、ついで出来のわるい凸凹の長塀としか見えない小売店街のいびきの中をよた
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