った。或る夜、また新宿からの帰途、例の戸山ッ原にさしかかったとき、全く同じような目にあった。つまり、わたくしの姿が、またもや全然認められないのであった。
恐しい病気の再発に似たわたくしの悲しみだった。白石君の言は、たった三日たらず、わたくしをよろこばせてくれたに過ぎないのであった。わたくしは、再び暗黒の無限地獄《むげんじごく》へ、真逆《まっさか》さまに墜落していく。一体どうしたことであろうか。人間の身体が、全然見えなくなるなんて……。
相手の錯覚《さっかく》ではないようだ。相手を幾人かえても、見えないときは矢張り見えないのであった。わたくしは恐怖に戦慄しながらも、なぜそうなるのであるかと、ひそかに好奇心を湧きあがらせた。だが、その答は、にわかには出て来なかった。
わたくしは、そのような呪《のろ》わしい身の上を、余人に語る気はなかった。もしもそんなことをすれば、わたくしは忽ち興行師に追いかけられ、さあ見ていらっしゃい、お代は見てのお帰り――の見世物になってしまうことであろう。わたくしは、あくまで普通の人間でいたかった。
さりながら、いつまでたっても未解決のそのままで、じっとしてい
前へ
次へ
全21ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング