日本だけのことではなかった。世界的の異常現象だった。日本などは、まだ温い方であった。
ニューヨークでも、ロンドンでも、高さ数十階を誇る高層ビルが、雪害のために、頻々として、灰の塊のように崩れだした。雪害というよりも、氷害といった方がいい。高さ数十メートルに達する積雪は、その重さのために、下層の雪は、固い氷と化した。そして、だんだんと大きな塊となっていったのである。
氷だ。氷の塊だ。その氷塊が、しずかに動きだした。氷塊も、やっぱり高いところから低い方へ動いていくのだ。
もうそのころは、誰が見ても、地球の上に氷河期がやって来たことに気がついた。
氷河だ。大氷河だ。
氷河は、目に見えないように動いた。そして、地上からとび出したあらゆる建築物を押し倒しこれを粉砕していった。
建築物だけではない。丘陵も、氷河のために削られていった。丘陵だけではない。大きな山嶽が、下の方をだんだんに削り取られ、やがて一大音響とともに、氷河の上に崩れかかるというものすごい光景さえ、随所に演じられた。
だが、誰も、それを見た者はなかった。高さ数百メートルの氷河の下なる地上には、もはや一人の人間、一頭の白
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