第五氷河期
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)海嘯《つなみ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)融けた[#「融けた」は底本では「触けた」]
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     氷河狂の老博士

「氷河狂」といえば、誰も知らない者はない北見徹太郎博士は、ついに警視庁へ出頭を命ぜられた。
 老博士は、銀髪銀髯の中から、血色のいい頬を耀かせ、調室の壊れかかった椅子に傲然と反り身になり、ひとり鼻をくんくん鳴らしていた。
「うむ、実にけしからん。わしをわざわざ呼んでおきながら、いつまで待たせるのか。わしを一分間、むだに過ごさせるということはやがて一千人の人間、いや一万人の人間を凍結させることになるのだ。ばかな話じゃ」
 そういって老博士は、またもや、鼻をくんくん鳴らした。
 午後の陽ざしが、ただ一つ西側にあいた窓から入ってきて、破れたリノリウムの上に、鉄格子の影をおとしている。冬とはいえ、今年はいやに暖い日がつづく。
 扉が、乱暴に開いて、警官が、ぬっと顔をさし入れた。彼は、博士の姿を見ると、後をふりかえって、うなずいた。
 博士は、椅子からとび
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