上がり、
「おい、こら。いつまで待たせるのじゃ。総監にそういえ」
 と、人もなげな口をきいた。
 そのとき、入口から、力士にしてもはずかしくない巨漢が現われた。きちんとした制服に身をかためた植松総監だった。そのあとから、背広服の人物が三、四人。
「やあ、北見博士。お待たせいたしました。なにしろ、今日は、つぎつぎに急ぎの仕事が押しかけたもので、たいへん遅くなって申し訳ありません」
 総監は、人ざわりのいい言葉で、老博士の機嫌をとった。
「今日は、わしをどうしようというのかな。わしも、あなた以上に忙しい身の上だから、早いところ用事を片づけてもらいましょう」
「いや、博士、例の氷河の件ですがね。今日は、皆で博士の話を承ろうというので、集まってきたんです。さあ、皆さん、そこらへ席をとってください」
 北見博士は、うさんくさそうに、総監についてきた一同の顔を見まわした。
「この連中は、何者じゃな」
「皆、本庁関係の者ですよ。博士の氷河の話に、たいへん興味をもっている人たちです。――博士、氷河期が近くこの地球に襲来するというのは、本当ですか」
「本当か嘘か、そんなことをいまさら論じているひまはない
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