梅雨の季節となったが、雨はすこしも降らなかった。変調は、いよいよ現われはじめたのである。
七月となり八月となった。いつもの年ならば、人々は、襯衣《はだぎ》一枚となり、あついあついと汗をふき、氷水をのむのであったが、その年の七月八月は、まるで高山の上に暮しているように寒冷をおぼえた。むしろ春の頃よりも、気温が下ったように感じた。
そのころには、人々は、いくら大空を仰いでみても、あの澄みわたったうつくしい紺碧の空を仰ぐことはできなかった。空は、熱砂の嵐のように、赤黒く濁っていた。そしてその中に、赤いペンキをなすりつけたように、太陽形が、ぼんやりとうかんでいた。
九月十月になって、雨が降り出した。雨はなかなかやまなかった。そのうちに雪にかわった。雪が降りだすと、いつもとは反対に、気温がぐんぐん下りだした。
積雪は、いつものように、屋根からかきおろされ、道路をうずめているものは、下水管の中に捨てられた。
だが、下水管は、まもなく雪でいっぱいになってしまった。下水がいっこうに流れないのであった。そして雪といっしょになって凍りついた。
積雪は、もはや道路のうえから取り除くことができなく
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