せっかくの権威者会談が、青倉教授と志々度博士の意見の両立となってしまって、総監はついに、その席では、何らの措置決定をせずして、会談を閉じた。
 しかし彼は、北見氷子女史からもたらされた老博士の申し出事件を、うやむやに葬ってしまう考えはなかったのであった。
 会談解散後、総監は、ひとり多島警視を自分の部屋に呼び込んで、二人きりの相談にうつった。
「ねえ多島警視。さっきの会談は、弱ったじゃないか。君は、終始黙々としていたが、あれはどうしたわけだ。ここで説明したまえ」
 総監は、警視の沈黙をよく憶えていて、ここで返事を督促したのであった。
 警視は、そういわれると、自分で椅子を総監の方に進めながら、
「総監閣下。これからある意外なご報告をいたそうと思いますが、その前に、閣下に対し、おわびを申しておかねばならないことがあります」
「なんじゃ、吾輩に詫びることがある。ふーん、そうか。君にしては珍らしい話だ。よろしい。怒りはせん。いいたまえ」
「はい。実は、閣下には申し上げないで、私一存によりまして、調査していたことがございました」
「ふむ。それは、どういう事項か」
「それは、北見博士の行動につ
前へ 次へ
全30ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング