く、富士山自身もついに頂上付近より噴煙をはじめました。今後さらに活発になるものと思われます……」
富士山が噴火をはじめたというのだ。
なんという驚きであろう。市民たちは、それを聞くと、争って西の空を仰いだ。
すると、ようやく暮色せまった西空が、火事のように赤く焼けているではないか。夕焼とはちがう。
「おお、あそこだ。富士山が燃えている」
真赤な雲の裾から、左右に、富士山のゆるやかな傾斜が見えていた。山巓のところは、まさに異状があった。黒いような赤いような大きな雲の塊が、すこしずつ、むくむくと上にのびあがっていくのが見える。そして、ときどき、電気のようなものが、慄えながら見入っている人々の目を射た。
富士山の噴火は、ついに事実となって、市民の目の前に現われたのである。
余震は頻々として、襲来した。いや、余震ではなく、新しい噴火や爆発が、ますます強度の地震を呼び迎えたのであった。
東京市民は、だんだんと事態の容易ならざることを悟るにいたった。ニュースは、ほんのわずかしか伝えられないが、この調子では、さだめし全国的に、たいへんな被害が生じていることであろう。
火災、海嘯《つな
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