突切って、いよいよ暗い方へ逃げ出した。
逃げながらも、私は朗《ほがら》かであった。どうかと疑った瀬尾教授のズボンの下には、私が忘れることの出来ないあの売払った脚が発見されなかったのである。すると瀬尾教授は、私の血眼になって探している男ではない。
それはいいが、一向姿を見せない彼の仇し男は一体誰であろうか。どんな顔をしている男だろうか。
無間地獄《むげんじごく》
這々《ほうほう》の体《てい》で逃げ出した私は、さすがに追跡が恐しくなって、その夜は鳴海の家を叩いて、泊めて貰った。
鳴海は、私から事情を聞いて、その乱暴をきつく戒《いまし》めた。そして今夜はたとえどんなことが起ろうと僕が引受けてうまくやるから、君は安心して睡れといって呉れた。お蔭で私は、ぐっすりと安眠することができた。
朝が来た。窓が明るくなると、私は反射的に跳起《とびお》きた。愕《おどろ》くことはなかった。鳴海が傍でぐうぐうと睡っていたし、家は彼の宅であった。追跡者も、遂に私の身柄を取押えることができなかったのである。一安心だ。
食堂へいって鳴海と共に朝食を済ませた。それから彼の部屋へ行って、電気暖房を囲
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