酩酊《めいてい》の気味でふらふらした足取で、こっちへ近づくのが何故か目に停った。
「あ、瀬尾教授!」
 おお、間違いなく瀬尾教授だ。このとき私の頭脳に稲妻の如く閃《ひらめ》いた一事がある。
(ははあ、この先生のことかもしれぬ。私はうっかりこの先生と珠子との結びつきを忘れていたぞ。そうだ、珠子から私の脚を贈られたのは、この瀬尾教授かもしれない。よし、今それを改めてくれるぜ)
 私の胸は踊った。後は何が何やら夢中である。もう恐さも恥かしさもない。私は狂犬のように横町から飛出していって、いきなり教授の腕を捉《とら》えた。それから教授をずるずると横町へ引張りこんだ。それから隠し持ったる小刀で、教授のズボンを下から上へ向ってびりびりと引裂いた。そして教授の長い脛をズボン下から剥《む》き出すと、商売ものの懐中電灯をさっと照らしつけて、教授の毛脛《けずね》をまざまざと検視した。
「うわっ、た、助けてくれ」
 教授は教授らしくもない大悲鳴をもって、このとき助けを求めた。さあ、たいへん。忽《たちま》ち人の波が私たちの方へ殺到した。これはしまったと、私は提灯も懐中電灯もそこに放り出すと、一目散に暗い小路を
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