相|卜《うらな》いの店を張ろうというのだった。そして腰をどっしりと落付けて、かの両人の見張を行おうとするのだった。
 私はこの夜店の委員会の認可を受けた上で、黒の中折帽子に同じく黒い長マントを引摺《ひきず》るように着て、凩の吹く坂道の、小便横町の小暗《こぐら》き角《かど》に、お定《さだ》まりの古風な提灯《ちょうちん》を持って立商売《たちしょうばい》を始めた。始めの二三日は、むしろ楽しきことであったが、四日五日と経《へ》て行くうちに、この商売が決して楽なものではないと分った。いやむしろよほどの体力がないとやれない仕事だと分った。しかし私は屈《くっ》しなかった。
 風邪を引込んだが、私は休まなかった。水洟《みずばな》を啜《すす》りあげながら、なおも来る夜来る夜を頑張り続けた。さりながらその甲斐《かい》は一向に現われず、焦燥《しょうそう》は日と共に加わった。珠子とあの仇し男とは、余程巧みに万事をやっているらしい。
 ところが突然、一つの機会が天から降って私の前へ落ちて来た。それは立商売を始めてから四週日の金曜日の宵《よい》だったが、坂の上の方から折鞄《おりかばん》を小脇に抱えた紳士が、少しく
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