の咽喉《のど》を締めあげた腕を解き、その場に平伏《へいふく》して非礼を詫《わ》びるしかなかった。そしてその日、私は私の両の腕を先生に買取って貰ってから、そこを辞した。値段は百十五万円であるから、普通以上のよい値段であった。その代りに私は八千五百円を投じて割安な轢死人《れきしにん》の両腕を譲りうけ、それを移植して頂いた。で、手取りが百十四万千五百円也となった。これだけあれば、当分生活に困らない。
 こういう呪《のろ》わしき境遇に追込まれた者の常として、平面無臭の生活ができないことは首肯されるであろう。私の場合においてもこの例に漏《も》れず、日夜刺激を追及し、その生活は次第に荒《すさ》んでいった。その行状は、ここに文字にすることを憚《はばか》るが、私の金づかいも日と共に荒くなり、両腕を売飛ばして懐《ふところ》に持った百十四万余の大金も、そう永からぬ期間のうちに他人にまきあげられてしまい、私はまた金策に苦労しなければならなくなった。そして結局は、酒の勢いに助けられて和歌宮先生の門に飛込み、或いは心臓を売り、或いは背中一面の皮膚を売りなどして、内臓といわず何といわず、次から次へと売飛ばして金に
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