何でもその男を引補え、珠子に思い知らせてやらねばこの腹の虫がおさまらない!)
私は遂に復讐の鬼と化《か》した。
凩《こがらし》の夜店
復讐の鬼と化した私は、前後を忘《ぼう》じ、昼といわず夜といわず巷《ちまた》を走り廻った。もちろんその目的は、珠子と、私の生れついたる美しい脚を騙取《へんしゅ》したる――敢えてそういうのだ――その男とを引捕《ひっとら》えるためであった。
が、珠子とその男とは、なかなか私の視界に入らなかった。その二人は、巷を歩かないわけではなく、私はたびたび珠子とその男の姿を見かけた話を耳にした。しかも私の不運なる、遂に両人に行逢《ゆきあ》うことができないのであった。
私は自暴自棄《じぼうじき》になって、不逞《ふてい》にも和歌宮先生の許へ暴れ込んだ。私は悪鬼につかれたようになって、先生を診察台の上へねじ伏せると、かの私の生れついた美しい両脚を珠子づれに譲渡したことを詰《なじ》った。しかし先生は、私の無礼を咎《とが》めもせず、静かな声で、一旦君から買取った上はこれをどう処分をしようと私の自由であり、君は文句をいう権利がない旨《むね》を諭《さと》した。私は先生
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