和歌宮先生から買取り、そして彼女が予《か》ねて愛する男へ捧げられたという。今後油断をすると飛んでもないことになるぞ、早耳生――というのだ。
珠子にかねて愛する男があったとは、私の方で否定するわけには行かぬが、先頃遊覧中は、そんなことはおくびにも出さなかった珠子だった。そして今、私の大事にしていた脚を彼女が買取ってその男に捧《ささ》げたとは何たる事か。私に脚を売払えとしきりに薦《すす》めたのは余人ならず珠子であったではないか。そして私に売却させて置いて、後でそれを自分で買取って予ねての愛人への贈物にするとは、実に許しがたい暴状である。
それにしても、彼女の予ねて愛する男とは何者であろうか。彼は今、珠子から私のあの美しい脚を贈られてそれを移植し、いい気持になっているのであろう。何と私は莫迦者《ばかもの》あつかいされたことか。ああ、それで読めた。外科手術の大家たる瀬尾教授と彼女が並んで歩いていたのも、その脚の移植手術を教授に頼んだものに違いない。
私は憤激《ふんげき》の極に達した。時間の推移と共に、私の頭は痛みを加え、胸は張りさけんばかりになった。
(このまま見逃すことはできない。何が
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