しつか》えなかろう。瀬尾教授だ」
「なに、瀬尾教授。あの、大学の瀬尾外科の主任教授である瀬尾先生か」
「そうだ。だから君は別に興奮しないでよかったのだ」
私はしばらく沈黙していた。そしてそのあとで呟《つぶや》いた。
「一体珠子は瀬尾教授なんかに何の用があるんだろう」
その理由は、見当がつかなかった。しかし珠子があれ以来私に対し行方をくらまし、音信不通の状態をとっていることから考えて、たとえ相手が瀬尾教授であろうと、それと肩を並べて歩いているということは、私にとって重大問題たることを失わないのだ。
「君は今、H街だといったな」
「おい、血相かえて何処《どこ》へ行くんだ。待て、待てといったら」
私は鳴海の狼狽《ろうばい》する声を後に残して、外に飛出した。行先はもちろんH街であった。
H街はひどく雑鬧《ざっとう》していた。はげしい人波をかきわけ、或いは押戻されつして、私は何回となく求むる人を探し廻った。しかしその結果は、何の得るところもなかった。二人はどこかへ雲隠れしてしまったのだ。
まあいい。いずれそのうちに、二人は又このH街に現われるだろう。そのときこそ引捕《ひっとら》えてくれ
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