られたくなかったからだ。でも鳴海は、ふうんと呻《うな》ったばかりで、私の脚へちらりと一瞥《いちべつ》を送り、あとは気にもとめていないという顔をした。
「珠子さんと一緒じゃなかったのかい」
「なにい……」
私は不意打をくらって蒼《あお》くなった。
「いや、機嫌を悪くしたら、勘弁《かんべん》したまえ。なあに、さっき珠子さんの後姿を見つけたもんだから……」
「えっ、どこで珠子を……。詳《くわ》しくいってくれ」
鳴海はびっくりして暫く私の顔を見詰めていたが、
「君を興奮させるつもりはなかったのだ。H街《がい》を彼女は歩いていたよ」
「ひとりきりか。それとも連《つ》れがあったか」
「さあ……困ったなあ」
「本当のことをいってくれ。僕は今真実を知りたいんだ。珠子は他の男と歩いていたのだろう。その男は、どんな奴だったい」
私の険《けわ》しい追及が、鳴海の返答をかえって遅らせた。でも結局彼は答えた。
「別に怪しい人物ではなかったよ」
「でも……どんな男だ、其奴《そいつ》は……」
「君の知っている人だよ」
「じらせてはいけない。珠子の連れの男は誰だったか、早くそれをいってくれ」
「いっても差支《さ
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