ら老師は、学問的にすこしく疲れていられるのではありませんか。もしそうだとすると、これからあの金博士の奴を、この某大使館の始末機関で始末していただこうと余は大いに期待しているわけですが、それが甚《はなは》だ覚束《おぼつか》ないことになりますなあ。老師、大丈夫ですかなあ」
醤買石は、心細そうにいう。
「濃度をまちがえるような耄碌《もうろく》はしないつもりじゃが、はて、どこでまちがったかな」
王老師は、しきりに首をひねったり、山羊髯《やぎひげ》をしごいてみたが、一向その不思議は解《と》けなかった。
3
「おかげさまで、十分睡眠をとることが出来まして、長旅の疲れもすっかり癒《なお》りましたわい。いや、老師のおかげです」
食卓に向い合って、金博士が、王水険老師《おうすいけんろうし》を恭々《うやうや》しく拝《はい》しながらいった。それは老師にとって、いささか皮肉にも響く言葉であった。
「いや、お互《たが》いの年齢《とし》となっては、疲れを除くには睡眠にかぎるようじゃ。すなわち、いよいよ年齢をとれば、大量の睡眠が必要となり、すなわち永遠の眠りにつくというわけじゃ」
「御教訓、
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