博士はその部屋に入ったが、すぐ出て来た。そして元の食堂に戻って来た。
 このとき卓子《テーブル》の上には、白いクロスが伸べられ、その上には金色のフォークやナイフが並び、卓子《テーブル》の用意が出来ていた。
 博士は、ナプキンを胸にさし込みながら、食事の催促《さいそく》をした。
 給仕が、燻製《くんせい》の鮭《さけ》を、金《きん》の盆にのせて持ってきた。
「おや、わしの好きな燻製が朝から出て来るぞ。これは頼《たの》もしい。彼奴《きゃつ》らの目の覚めないうちに、腹一杯喰っておくことにしよう」
 博士の機嫌《きげん》は、斜《なな》めならず、フォークとナイフとを使いながら、何かしきりに呟《つぶや》いている様子が、たいへん楽しそうに見えた。
 そこへ給仕頭が、次の料理を搬《はこ》んできた。金博士は、その給仕頭をとらまえて、
「おい、あんちゃん。わしが王先生と醤買石の寝室を覗《のぞ》きにいったことは、内緒にしておいてくれ。これはわしの志《こころざし》ぢゃ」
 そういって博士は、ポケットから取り出した一つかみの金貨を呆《あき》れ顔の、給仕頭の掌《て》にのせてやった。


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