炉の蓋《ふた》をぎりぎりばったんと開けてみた。すると、あら不思議、炉の中からは、依然たる姿の金博士がぬっと現われ、
「わっはっはっ、わっはっはっはっ」
 と、あたりかまわず無遠慮な笑声《しょうせい》を響かせながら、そこを出て、階段をとことことのぼっていってしまったのである。
 金博士は、ずんずんと歩いて、元の居間へ戻って来た。
 扉をあけると、部屋はきちんと片づいている。部屋の隅には、博士のトランクが三つ、積み重ねてあるのが見える。
「おお、帰ってきたか」
 博士の声がした――部屋の隅に、その声がしたようである。
 博士は、部屋の真中に、黙って直立している。
 すると、三つ積んであるトランクの一番上のものが、ころころと下に転《ころが》りおちた。すると、二つ重ねてあったトランクから、ぬっと人間の首が出た。それは何と不思議にも金博士そっくりの顔をしていた。
 すると、こんどは上にのっているトランクがもちあがった。そのトランクに二本の足が生《は》えた。トランクに足が生えたわけではない、裸の金博士が、真中に穴のあいたトランクを胴にはめたまま立ち上ったのである。裸の博士は、そのトランクを外した。
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