「きっとうまくいく。さあ見て居れ。今、金博士が、あの廊下の角《かど》を曲ると、とたんに床が外れて、金の身体は奈落《ならく》へおちる。その奈落には、火薬炉が大きな口をあけて待っているのだ……」
「能書《のうがき》はあとにして、金博士を骨にして見せて下され」
「いざ、いざ、これを見よや」
 王水険老師は、この寒中に汗だくだくとなって、廊下の床をおとすスィッチを引いた。
 金博士は、廊下をそのときゆっくり歩いていたが、何の考《かんがえ》もなく、この手に引懸《ひっかか》って、奈落へ……。それから、がちゃん、がらがらと大きな音がして、身は火薬炉の中に密閉されてしまった。
 電気炉のスィッチは入った。じりじりと電熱線は身ぶるいをはじめ、燻《こ》げくさい熱が久振りに人間の膚《はだ》を慕《した》って、匐《は》いよってきた。
 高熱三時間。これくらい長い間熱すると、人間の肉や皮は燃えおち、人骨《じんこつ》さえ、もう形をとどめず、ばらばらとなって、一つかみの石灰《いしばい》としか見えなくなる。
「もうこの辺でよろしかろう。ほう、ずいぶん手間をとらせたわい」
 と、王老師は、醤|立合《たちあ》いで、火葬
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