もあるまい。可哀《かわい》そうに死んだか」
「王老師、壁に穴があきましたよ。人体《じんたい》の形をした穴です」
「何じゃ」
「そして金の奴の姿が見えませんぞ。あっ、あの穴から、部屋の中をのぞいています。王老師、金は自分の身体で壁をぶちぬき、無事に廊下にとびだして、部屋の中をじろじろみているのですよ。可哀そうに死んだかも何もあるものですか」
「ふーん、これは想像に絶して、あの金博士め、手硬《てごわ》い奴じゃ」
 この某国大使館の、いろいろある始末機関をそれからそれへと動員して使ってみたが、どういうわけか、たった一人の博士を片附《かたづ》けることは仲々|容易《ようい》に成功しなかった。
「王老師、どうしてくれる」
「待て、せっかちな!」
 今や醤買石と王老師の間柄は、湯気《ゆげ》の出るほど切迫《せっぱく》していた。
「もう一つ、やってみることがある。これなら、きっとうまくいく」
「どうだかなあ、信用は出来ん」
「いや、これは確実だ。火薬炉《かやくろ》の中につきおとして密閉《みっぺい》し、電熱のスイッチを入れて、じゅうじゅう焼いてしまうのだ」
「本当にそのとおりいくのなら、大したものだが……
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