そしてのこのこと立ち現れて、部屋の真中に立っている服装正しい博士と対座した。二人の博士。一体これはどういうわけであろうか。
裸の博士は、そこで大きな欠伸《あくび》を一つしたが、それから両手をさし出して、服装正しい博士の身体にさわってみた。そして呟《つぶや》いた。
「うむ、よく冷《ひ》えている。十分熱に耐えたようじゃ。彼奴《かやつ》らは、まさかこの人造人間《じんぞうにんげん》の胸の中には、液体酸素の冷却装置があるということに気がつかないのじゃろう。いや、ことによると、このごろ彼奴らの前に現れる金博士が、かくの如き人造人間であるということにすら、気がつかないかもしれん」
この独《ひと》りごとから推すと、裸の博士が本当の金博士で、服装正しき博士こそ、身代りの人造人間の金博士であったのである。道理《どうり》で、毒酒毒蛇も平気だし、弾丸《たま》にあたっても、壁にぶつけられても死なない筈《はず》であった。
「ああ、この大使館の燻製《くんせい》の鮭《さけ》と火酒《ウォッカ》にも飽《あ》きてしまったわい。もうこれくらい滞在しておけば、王老師の顔も立つことじゃろう。では今のうちに、道具をまとめて、帰
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