んにひどく泥を被《かぶ》っていた。
「やあ、金どのか。一杯どうじゃ」
 王老師も、ちょっとおどろいて、前にあった盃をとって差し出した。
「いや、酒はもうたくさんですわい」
 と金博士が、落付いた声でいった。
 うむと呻《うな》った老師は、のみかけの酒を食道《しょくどう》の代りに気管《きかん》の方へ送って、はげしく咳《せ》き込んだ。
「いや、老師先生。ここの酒は、あまり感心しませんなあ」
「そ、そんなはずは……ごほん、ごほん」
「どうも、感心できませんや、砒素《ひそ》の入っている合成酒《ごうせいしゅ》はねえ。口あたりはいいが、呑《の》むと胃袋の内壁《ないへき》に銀鏡《ぎんきょう》で出来て、いつまでももたれていけません」
「ま、真逆《まさか》ね」
「本当ですよ。気持がわるくなって、庭園を歩いていましたが、ふしぎなことにぶつかりました」
「ふしぎなことって、それは耳よりな、どうしたのかね」
「この庭園には、冬だというのに、蛇が出てくるんですよ」
「ああ一件の……いや、二メートルの蛇か」
「二メートルもありませんでしたが、頤《あご》のふくれた猛毒をもった蛇です。トニメレスルス・エレガンスに似て
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